とろける恋のヴィブラート

「そんな浮かない顔してどうしたカイリ?」


「石田……先生」


 石田が唖然としている御堂の元へゆっくりと歩み寄ると、にこにこ笑いながらポンと御堂の肩に手を置いた。


「君のコンサートをやるって聞いてね、予定を変更して急いで来たんだ。時間ギリギリってところだったね」


「こんなところに来て体調はいいのかよ……」


 照れ隠ししながらぶっきらぼうに御堂が言うと、石田は満面の笑顔で言った。


「お陰様でね、悪化していくばかりだと思っていた病気も順調に回復して、やっと最近退院できたんだよ。それで、同じ退院した仲間として、小さなファンも一緒に連れてきた」


 すると、石田の後ろからひょこりと男の子が恥ずかしそうに顔を出した。


「健太……? お前、退院したのか?」


 御堂が目を瞠っていると、そんな様子を見て満足げに健太が笑った。


「うん! びっくりした? カイリ、僕ね、カイリみたいになりたくてヴァイオリンを習い始めたんだ。今度、教えて欲しいな! 今まで入院してて何もできなかったんだから、ねぇ、いいでしょ?」


「あぁ、わかった。約束だ」


「やったー!」


 先程の寂寥感漂う客席とは打って変わって、いつの間にか野外ステージはたくさんの人で賑わいをみせていた。