とろける恋のヴィブラート

「あの、御堂さん……今、弾いてた曲は?」


 片山の結婚式の時に余興で演奏した曲に似ていたが少し違っていた。御堂は譜面を奏に手渡すと、ヴァイオリンを下ろし、奏の横にゆっくりと座った。


「お前を専属から外したあと、一ヶ月かかって作り直した曲だ。まぁ、今だから言うけど、余興の時の曲はまだ未完成に近かったからな……まだタイトルもなかったし」


 譜面に目を通すと、ヴァイオリンとピアノの二重奏が今にも優雅に聞こえてきそうだった。


 余興の時に演奏したものも十分に曲として成立していたと思っていたが、作り直したものは、それ以上にさらに洗練された曲に仕上がっていた。


「お前と会わずにずっと、この曲を書き上げることだけに集中してた。本当はウィーンに立つ前にこの曲をお前に渡そうと思っていたんだ」


「私と会わないって言ったのはこの曲のため……? ウィーンに行く前にって……そんな、御堂さんは本当に勝手な人ですね」


 こんな素晴らしい曲を別れ際にプレゼントされて、御堂だけが遠くへ行ってしまうなど、想像するだけで胸が張り裂けそうだった。そんな切ない想いを想像すると、じんと目頭が熱くなった。