※ ※ ※

(やっと着いた……)


 仕事が終わり、奏は疲れた身体に活を入れると、しゃきっと背筋を伸ばして御堂の部屋のカードキーを滑らせた。ピーという機械音が廊下に響くとカチッと玄関が開錠される。


 御堂の部屋のスペアキーを使って部屋に入るのは初めてだった。いつもなら遠慮してインターホンを鳴らしてしまうのだが、玄関のドアの前に立った時、微かにヴァイオリンの音色が聞こえた。


(この曲は……?)


 そっとドアを閉めてリビングに足を踏み入れると、スタンドライトの間接照明が、ヴァイオリンを弾く御堂をぼうっと照らしていた。どことなく幻想的なその姿に、奏は自然と目を奪われてしまう。


「ん? あぁ、来たか」


「すみません、練習中だと思って勝手に入ってきちゃいました」


「別にいい、そのためのスペアだからな」


 自分だけが御堂の懐に入れるという愉悦に、奏の頬が思わず緩んでしまう。


「なに、ニヤついてんだ? まぁ、そこに座れ」


「え? あ、はい」


 緩んだ頬をパシパシと叩いて筋肉を再び引き締めると、奏は勧められるがままにソファに座った。