とろける恋のヴィブラート

「あれは……!」


 それは一瞬だったが、偶然奏の視線の先に、スーツを着こなした御堂によく似た後ろ姿がすっと横切った。


(間違いない、御堂さんだ)


 奏は、見失わないようにその背中だけを見つめ、早足で後をつけた――。




 御堂の影は関係者以外立ち入り禁止のドアを抜け、誰もいない廊下をスタスタと歩いている。


(待って、御堂さん!)


 奏は、夢中になって追いかけ、ついに喉から御堂を呼び止めようとした時だった。


「こら! 君!」


「っ!?」


 ぐいっと肩を掴まれて慌てて振り向くと、警備員が眉間に皺を寄せて明らかに不審者を見るような目つきで奏を見下ろしていた。


「ここは一般客立ち入り禁止だよ? あそこに書いてあったでしょ?」


「……すみません」


 いたずらが見つかってしまった子供のように、奏はしゅんと俯いた。けれど、ここで諦めるわけにはいかなかった。