とろける恋のヴィブラート

 シークレット公演というだけあって、会場に来ているオーディエンスは業界人がほとんどだった。


(なんか場違いな気がしてきた……)


 奏は、堅苦しい雰囲気の漂う会場の網目をくぐって自分の席に着いた。


 一息ついたその時――。


(み、御堂さん!?)


 ステージの前の方で海外からの来客に挨拶をしている御堂の姿が見えた気がした。奏は、思わず腰を浮かせて前のめりになると、それと同時に開演合図のブザーが鳴った。


(だめ、見えなくなっちゃう!)


 照明が落とされると、御堂の姿は闇の中へ紛れて見えなくなってしまった。そわそわした気持ちを押さえつけて、奏は手元のパンフレットに目を落とす。するとそこには、御堂の父、エドガー・ガブリエル・アッヘンヴァルの紹介文が書かれていた。


 奏は、ステージの袖から颯爽と姿を現したその人物と照らし合わせると、今、目の前でタクトを振り上げる指揮者こそがエドガーであると確信した。


(あの人が、御堂さんの……)


 御堂と同じアッシュブラウンの髪の色が印象的だった。


 照明に照らされてほとんどブロンドに見えたが、背格好も顔の輪郭も御堂そっくりだった。


 公演時間は休憩を挟みながら二時間。奏は、フランシスカ交響楽団の奏でる音楽に耳を傾けつつも、エドガーと接触する方法を頭の中で網羅させた――。