とろける恋のヴィブラート

「ふぅん……」


 奏の演奏を聴きながら、に片手にカクテルグラスを傾ける女性がいた。


「なかなかいい表現力持ってるわね、彼女。北見さん、おかわりちょうだい」


 桐島瑞希は、奏が演奏を始める前からカウンターの隅の方で様子を窺っていた。
どんなピアニストが来るのかと想像していたが、思いのほかごく普通のOLだったことに瑞希は驚いた。


「彼女、昼間は音楽事務所でOLしてるんだ。学生の時はよくここで演奏してもらってたんだけど、色々あったみたいでね……」


 カウンター越しに北見がブランデーの入ったグラスを差し出すと、瑞希がそれを無言で受け取った。


「色々ねぇ……。誰が沈黙のピアニストよ、音楽は口ほどに物を言うっていうことわざ作って欲しいわ……」」


 瑞希は、継ぎ足されたブランデーのグラスを傾け、回る琥珀色の液体を見つめながら優雅に流れるピアノを聴いていた――。