『彼女、雰囲気のいい店を探してて偶然うちの店に立ち寄ったんだって、いきなり有名人がふらっと入ってきたからびっくりしちゃったよ。それで、音楽の話で結構盛り上がってね』


「そうだったんですか」


『話の流れで奏ちゃんのことを話題に出したら、是非とも紹介して欲しいって言われてさ……ずっと奏ちゃんに会ってみたかったって言ってたよ? 実は知り合いだったりするの?』


「えっ!? 桐島瑞希さんが? 私に?」


 なぜ、瑞希が自分に会いたがっているのかわからなかった。そもそも、なぜ、自分のことを知っているのか、奏は北見の話に困惑を隠せなかった。


『奏ちゃん? 大丈夫?』


「え? あ、はい。すみません、なんだかびっくりしてしまって……」


『今夜、奏ちゃんが演奏しに来るって伝えたら、その時にまた来るってさ、演奏の後にお酒でも交えて話がしたいから時間取れるか聞いてくれって言われたんだ』


「わかりました。わざわざすみません。じゃあ、また後で」


 奏は、電話を切ってバッグにしまうと、桐島瑞希に会うという緊張と胸の高鳴りを押さえながらラウンジへ向かった――。