とろける恋のヴィブラート

「御堂さんの専属をしながら演奏家にだってなれます! 御堂さん、私を見くびらないでください! だから――」


 御堂がすくっとソファから立ち上がる。自分を見下ろす御堂のその瞳に、奏は短く息を呑んだ。そこには、切なさと悲愴が入り混じった複雑な鈍い光を揺らしていた。


(御堂さん……)


「お前が演奏家になって、同じ土俵に立てる日を楽しみにしてる」


「ま、待って――」


「お前は俺といたら本来なるべき姿になれない、だから専属を外す。それにもう会わない方がいい……」


 くるりと背を向けて御堂が出口へ向かって歩き出す。奏は立ち上がって追いかけようとしたが、身体が硬直して全く足を動かすことができなかった。


「御堂さん!」


 御堂の背中に投げつけた呼びかけは、ただ虚しく夜空へこだまして響いていた――。