とろける恋のヴィブラート

(御堂さんがそんなふうに悩んでたなんて……)


 完全無欠のヴァイオリニストだと思っていたが、御堂も自分と同じように悩んでいた時期があったと知ると、妙に親近感が湧いてしまう。


「そういえば、お前は高校の時からボランティアやチャリティーコンサートをやっていたな」


「え? は、はい。どうしてそれを……」


 かつて奏は、大きなコンクールやコンサートに出ていたが、チケットを買いたくても買えない人達のために自己満足だとわかっていても、格安で小さなコンサートを独自に開いていたりしていた。


「まるで子供の発表会のようなコンサートだったけどな、お前がすごく楽しそうだったのを今でも覚えている」


(御堂さん、もしかして……あの時、見に来てくれてたの?)


 緩やかな風が御堂の髪を揺るがすと、少し長めに伸びた前髪の隙間から、淡褐色の瞳がまっすぐ自分を見つめているのに気づいて、奏の心臓がドキリとする。



「できれば高校卒業後も日本に留まりたかったが……ウィーンで病気療養中だった母の容態が悪化して、卒業とともに日本を離れた」


 その時の切なさが御堂の瞳に蘇ると、奏の胸がきゅっと締め付けられた。


「お母様が……?」


「あぁ、結局だめだったけどな」