とろける恋のヴィブラート

「御堂さん、ひとつ私のわがまま聞いてもらっていいですか?」


「なんだ?」


「御堂さんのG線上のアリア、聴かせてください」


 奏は、御堂が自分のヴァイオリンを片時も手放さず持ち歩いていることを知っている。その証拠に今もソファの横にケースが置かれていた。


 御堂は、いきなりの奏の申し出に、一瞬戸惑いを見せたが、“仕方がないな”というふうに小さく笑ってケースを開いた。


「この俺が、たった一人のためにヴァイオリンを聴かせるなんて前代未聞だぞ。まぁ、今日の褒美だ」


 ぶっきらぼうにいいながらも照れたその横顔に、奏はついクスリと笑ってしまう。そんな奏を横目でぎろりと睨むと、御堂はすっとヴァイオリンを構えた。


 ヴァイオリンを弾いている時の御堂は、奏にとって特別だった。美しく、優雅で、心が乱れていてもなぜか落ち着きを取り戻せる。


 御堂の奏でる旋律が夜空に響き出すと、奏の胸が徐々に高鳴っていった。