とろける恋のヴィブラート

『母さんは元気か?』


「あぁ、墓の下であんたの帰りを今か今かと待ってるよ」


『そうか……』


 玲奈は、御堂が二十歳の時に病気で他界した。葬式にも公演のために欠席した父をずっと憎んでいた時もあったが、自分も演奏家として自由な暮らしをし始めてから、なんとなくエドガーの気持ちも理解できるようになった。


『このミラノ公演が終わったら、ウィーンへ一旦戻る、その時に母さんに会いに行くとするよ』


「あぁ、そうしてくれ」


 御堂がエドガーを心底恨まないのは、エドガーも中年どころだというのに未だに独身を貫き通していることだった。


 エドガー自身、貴族のような気品あふれる身なりに端整な顔立ちをしている。


 幾度となく女性からの誘いはあったにも関わらず、エドガーはそんな誘いもうまくかわして、独身でいることを玲奈への愛情の証としていた。