とろける恋のヴィブラート

(御堂さん……)


 まるで合言葉のように御堂の唇が小さく動いて、奏だけにわかるメッセージを伝える。すると、不思議なことに、緊張で張り詰めていた神経がゆるゆるとほどけていくのがわかった。


 ドクドクと波打つ鼓動も落ち着いて、奏を取り巻いていた恐怖のモヤが一気に吹き飛んでいくようだった。


(いつまでもトラウマに負けてなんかられない!)


 奏は、ゆっくりと深呼吸をすると、そっと真っ白な鍵盤に指を乗せ、ゆっくりと滑らせた。そして、御堂のヴァイオリンに導かれるように自然と旋律を刻んでいった。



(御堂さん……私、やっぱりピアノが好き……ずっとこうして弾いていたい)


 御堂の音と自分の奏でる音が空間で絡み合う。


 まるで間に見えないダンスをしているような気分だった。御堂の音楽に身を包まれると心地よくて、この上ない喜びに心が躍る。