とろける恋のヴィブラート

※ ※ ※

 マンションのエントランスを出ると、どんよりとした灰色の雲が夜空を覆い、冷たい雨を降らせていた。


(最悪……)


 御堂にピアノを用意してもらったことで舞い上がっていた。あのまま二人で楽しくセッションしていたかったのに、結果的に御堂を怒らせてしまった。


(ほんと、私……最悪だ)


 泣きたい気持ちを抑えて、奏は土砂降りの雨の中をトボトボと歩き出した。


 頭の天辺からしっとりと雨が染み渡ってくるのを感じる。コツコツとアスファルトを歩く靴の音が胸に響いて、ふと御堂のヴィブラートを思い出した。


(こんなはずじゃなかったのに……)


 髪の毛の先から雫が滴って頬を伝うと、それが涙なのかさえわからなくなる。奏が唇をぐっと噛んで走り出そうとした。


 その時――。