とろける恋のヴィブラート

「ああ? クラシックやってた割にこの俺を知らないとはな……エセ演奏家が」


「ちょ……なんですって!?」


 今にも襲いかかりそうな勢いの杏子を、横で片山が宥めて押さえ込む。


「き、杏子、落ち着いて! あの人は、ヴァイオリニストの御堂カイリさんだよ」


「ええっ!? う、嘘!? 本物?」


 杏子は、怒りからぎょっと驚いた表情に変わり、両手を口に当てて口をパクパクさせた。


「お前の言ってたトラブった客ってのはこいつらのことか?」


「み、みみみ御堂さ――」


 まったく空気を読もうとしない御堂に奏は、これ以上杏子を逆なでないように御堂の前に立ちはだかった。