とろける恋のヴィブラート

「ある時、音楽室から綺麗なピアノの旋律が流れてきて、僕は知らず知らずのうちに毎日ピアノが聞こえてくる時間帯に裏庭で読書をするようになったんです。そしてどんな人がピアノを弾いているのかいつも考えていました」


 柴野は、懐かしい記憶にふっと表情を和らげた。ひとりでに話す柴野の言葉を、御堂は黙ってただ聞いていた。


「そしてふと音楽室を見上げたら、黒髪の長い綺麗な人が窓を開けたんです。風に髪の毛がなびいて、僕は目を奪われました……彼女が音楽科の青山奏だって知って以来、僕の胸の中には常に彼女がいるんです」


「……それで、職場まで一緒なのは単なる偶然か?」


「ふふ……そんなわけないじゃないですか、僕はずっとずっと奏を追いかけてきたんですから……そしてやっと彼女を捕まえた。奏は僕と一緒にいることで幸せになれるんですよ、他の男に奏を幸せにすることなんかできない……もちろんあなたにもね」


 柴野は、そう言いながら唇を歪めてニヤリと笑った。


「なんなんだよ……お前」


 柴野に隠されていた知らざる一面を垣間見た気がして、御堂は柴野に対して大きな不信感を抱かずにはいられなかった――。