とろける恋のヴィブラート

「お前、本当に演奏家を諦めたのか?」


 過去に何度も同じような質問をされたことがある。その度に奏は一身上の都合で、とはぐらかすようにしてきた。その度に、音楽に目を背ける自分が嫌でたまらなかった。


「なぁ、例えば……医者が医療技術で人の命を救うのが仕事だとしたら、弁護士の仕事はなんだ?」


 御堂の唐突な質問に、奏はパチクリと瞬きをした。


「弁護士、ですか……。法律で人を守る……とか?」


「だったら演奏家は?」


「演奏家……」


 奏は考えを巡らせ、何度も心の中で自問した。


「自分の音の表現を、人に伝えて楽しんでもらうことでしょうか?」


「ふん、それじゃただの自己満足だろ」


 御堂は奏の答えに鼻を鳴らし、呆れたように言った。