とろける恋のヴィブラート

「青山君と言ったかね? 君は今、音楽事務所で仕事をしているのかい?」


 先程からどこぞの社長に話しかけられ、奏は自分のピアノのことを話題に持ち上げられる度、心底うんざりしていた。


「君のピアノはプロにも勝る。どうして演奏家として活動しないのかね?」


「それは……一身上の都合で」


「あぁ、そうか……いや、本当に君のピアノは素晴らしかったんだ。でも、人にはそれぞれ事情ってものがあるからな。そうかそうか、君も色々大変だ」


(はぁ……もう嫌)


 納得のいかない自分の演奏にも苛立っていた奏は、すべてが不愉快でたまらなかった。