「――ですから!
私はあの人とは何もないんです!
昨日ここにお客様として来てくださっただけで!」




壬生浪士組がとっくに過ぎて行ってしまった後も私はお客様に問いただされていた。
「そんな頑なに....もしかして無理矢理....」なんていう方も出てきてどれほどこの手の話が好きなんだ、と頭を抱えた。




「ほれ、もう伊勢ちゃんを困らせるな」




そこに騒ぎを聞いて主人が止めに入った。
このままでは仕事にならないと判断したのだろう、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

主人が出てきたとなればお客様も元の席に戻っていった。




改めて大家さんのもとへ注文を聞こうと向かえば、何やら苦い顔をされた。




「どうかしましたか?」




「いや....伊勢ちゃんの話が本当ならとんでもねえ客がついちまったな」




それは壬生浪士組を恐るからこそ出た言葉なのだろう、私は誤解をしてほしくなかったのでハッキリ言った。




「大家さん、少なくとも先程の方はここの団子を美味しいと言ってくださいました
まだあの方々はこの地で何もしてませんよ?

ハナから恐ろしい奴等だと決め付けるのは....」




こんな小娘に説き伏せられるだなんて普通なら嫌なはずだ、しかし大家さんは私の瞳をジッと見たかと思うと、豪快に笑い出した。




「タッハッハッハ!そうだな!
伊勢ちゃんの言う通りだ!スマンな!」




この人なら、わかってくれる。そう思っているからこそ私は意見を口にした。
大家さんの人の良さに私も笑みがこぼれた。









こうして、新たなお客様ができた。