『くっ、離しなさい!』


いくら女が力を入れ抗おうが、腕はきつく掴まれたままだった。

そればかりか、髭の男の力は以前よりも強くなっている気さえする。


『目の前のことに気を取られすぎなんだよ、バーカ!』


耳をつんざく、サングラスの男の嫌みたっぷりな笑い声。

神名恭介は歯をグッと食いしばり、拳に力を込めた。


『そいつを離しやがれ』

『は? 何言ってんだ。盗み見しといて、よくそんな口がたたけるな』

『そいつを離せって言ってんのが聞こえないのか』

『恐いね~。そんな睨まないでくれよ。……はぁ。仕方ないな、ほらよ』


言葉と同時に放たれた女の身体。

地面に投げつけられる形で自由になった彼女は、恐怖のせいか小刻みに震えている。


(ふぅ、良かっ……)


『勿論、タダで返すわけねぇけどな?』


(え?)


突如ニヤリ、不気味な笑みを浮かべた男は、ポケットに忍ばせていたナイフを刹那に取り出し、腕を天に近付けた。

突然のことに目を丸くする女の身体は、強張って動かない。


(……めて)


しかし、男は少しの躊躇も見せることなく、女目掛けてただそれを電光石火の如く振り下ろした。


(止めてーーーーーーっ!)