「....というわけだ。」

俺は驚いて声も出なかった。

蒼太たちは、保健室での俺と唯の言い争いを聞いていて、唯とも話をしたなんて...。

だが、俺が驚いたのはもう一つある。

「...俺が、誤解してるって何をだよ....?」

銀が言った。
俺も唯も、誤解してるって。
俺には何の事なのか、全然分からない。

そんな思いから、俺は銀にそう聞いた。

すると、銀はいつものニコニコした表情ではなく、真剣な顔をして言った。

「...優也は、唯ちゃんのことどう思ってるの?」

「はぁ!?な、何言って...」

「答えて。」

「....っ!!...」

聞き返そうとしたが、銀の鋭い目に何も言えなくなってしまった。

そんな俺を見て、蒼太がゆっくり口を開く。

「優也。お前は立花のこと、大事に思ってるんだろ?」

「...あぁ、大事だよ。大事で大切な人だ。...でも...あいつは...。」


"そんなのっ優也じゃない!"


今の俺を、「俺」だと…、「優也」だと唯は認めてくれなかった。


それに、俺は....。

"唯には分かんねーよ!俺の気持ちなんて!!"

唯を傷つけた。

ずっとそばにいてくれた唯を、自分から遠ざけた癖に...今は会いたくてしょうがない。

「...っくそ!なんなんだよ!俺はっ!!....どうして、いつもいつも...!!」

俺は座り込んだまま、地面に額をぶつけながら大きな声で喚いていた。
気持ちがグチャグチャになって、頭をぶつけ続けた。



頭の上から、優しい声が聞こえるまで。



「優也、聞いて?」

その声に顔を上げると、銀が俺の目の高さに合わせて座り込んで言った。

「唯ちゃんはね、優也のこと大事に思ってるよ?」

「...!?で、でも唯は、今の俺を...見てくれないんだ...。私の知ってる優也じゃないって...。」

自分で言った言葉なのに、なぜか目から涙がこぼれた。


なんで俺はすぐ泣くんだよ!...これじゃあ、昔のまんまだろっ!


自分にイラついて必死に拭うと、左の肩に手が置かれた。

その手は蒼太のもので、顔を合わすと、蒼太は諭すように声を発した。

「優也、それはちがう。立花は、ただ寂しかっただけなんだよ。
お前を守りたいと思う半面、強くなろうとしているお前を、応援したいと思う気持ちがぶつかって、立花はいつも悩んでいた。もっと楽な考えもあったと思う。
だけど、立花がそうしなかったわけが分かるか?優也。」

そう聞かれたが、答えが分からず俺は左右に首を振った。

蒼太はそっと肩から手を放して、言った。

「立花が、ずっとずっと...お前のそばに居たいと望んでいたからだよ。」

「.....え...?」

俺は蒼太の言葉で、時間が止まったように体が動かなくなった。

蒼太がそんな俺を見ながら、笑顔で話す。

「立花の気持ちは、お前と同じなんだよ、優也。
立花にとってお前は、"大事で大切な人"なんだよ。それにお前らは、お互いに気付いてなかったんだ。
...まったく、お前らは世話を焼かしてくれるな?」

ベシッ!!

「痛っ!!そ、蒼太っ...。」

蒼太にデコピンされて顔を上げると、蒼太と銀は笑っていた。

「ほらっ優也!立って立って!」

「銀...。」

銀に手を引っ張られながら、俺は立ち上がった。

そして二人に顔を合わせると、銀が左手を蒼太が右手の拳を出してきた。

俺もつられるように笑って、両手の拳を二人の拳に当てた。

息をたくさん吸い込んでゆっくり吐き、声にする。

「ありがとう!二人とも。」

「あとは、お前次第だ。頑張れよ!」

「ダイッジョーブ!!優也、ファイトっ!!」

俺がそう言うと、蒼太→銀の順で二人が言った。

当然のように笑って。


それから俺たちは、晩飯を食べてから明日に向けて準備を始めた。


"明日、絶対唯に伝えよう。俺の想いも知ってもらうんだ。
唯が、俺に教えてくれたように...。"


そう思いながら、俺は鞄の中に教科書を詰め込んだ。