「そろそろ時間、ですね」


「ん。じゃあ、オレは今日ここを旅立ちます」


「ぷっ…」




敬礼して、ふざける先輩に笑みおこぼして、私も同じようにして返した。




「はい。…行ってらっしゃい、頑張って下さい」


「おう。わざわざありがとね」




最後の最後まで先輩は笑顔で、私の頭を撫でた。




「また…、春奈ちゃんの卒業式に会いに来るよ」


「えっ?」


「じゃあね!」




ばいばい、と手を振って電車に乗り込む先輩。


私も同じように振り返し先輩を見つめる。


私の卒業式に…また、会えるのかな?


しばらくして電車がゆっくりと動き始め、だんだん距離ができる。


視界がどんどん霞んできて、振っていた手をぎゅっと握りしめた。


唇を噛み締めると頬を冷たいしずくが流れ落ちていった。




「…っ、離ればなれでも…私は先輩の事だいすきです…っ」




これを本人に言えたら、よかったのにな…。


弱虫な自分が言えたのは精一杯の「いってらっしゃい」と「頑張って」だけだった…。