バニラ

「へえ?何だそうだったの?
 じゃあ今度竹ちゃんフリー?
 デートしてよ?」

「え?」

「竹ちゃん、まだ若いのに、ずっとここに詰めてて、
 デートなんて暫くしてないんじゃない?」

「え、ええと…」

なんでそうなるのか?

「 さいきんなんか映画見た?」

「え、そうですね、この間金曜洋画劇場で、」

「ああ、そうじゃなくて映画館とか行ってだよ。」

「5年前に確か友だちと。」

「やっぱりね。外食とかもしてないんでしょ?」

「でも、毎日ここで賄い戴いてますから。」

徹さんは、大きくため息をついて、

「竹ちゃん。

 明日は何時に入るの?」

「えと。明日は午後からです」

「じゃあ、明日9時に駅前のモスで待ってて。
 デートするよ!」

「え?でも……」

「いいよね?和さん。」

「私が竹居さんの行動をどうこう言える立場じゃないですから。」

突然降ってわいたこの状況に戸惑っている私を、
まるで関係ないみたいに、
話を切られた。



ショックだった

そりゃあ私は和臣さんの何でもないけど、
でも、この間のバニラに包まれたあの時間は
なんだったの?

チラリと和臣さんを見たけど、
黙って奥に行ってしまった。

涙は出なかったけど、
心は冷たくしぼんでしまった。