バニラ

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「ご馳走様でした。」

いつものように、戴くまかない。

あの日以来、野菜の料理が一品多くなった。

『栄養の事も考えないといけませんね』
あの時和臣さんはそう言っていた。

ヒジキや温野菜の小鉢を戴くたびに、
私の事を考えてくれてるんだと感じて、胸がふわりと温かくなる。

下げた器を片付けながら、
ちらりと盗み見る和臣さんの顔。

コーヒーの焙煎機を楽しそうに手入れしながら、
常連の徹さんと話をしている。

ズキン


……っ

ああ、駄目だ、
お客さんに向ける笑顔でさえ

切なくて悲しくなる。

こんなに傍にいても、
手を伸ばせない弱虫な自分。


嫌になる。









私の視線に気がついたのか、
笑顔で徹さんが話を振って来た。

「竹ちゃん!もう大丈夫なの?」


「ああ、ハイ。

 この間はご迷惑をおかけしました。」

「全く参ったよ。

 何もできない俺を残して、
 和さん飛び出して行っちゃってさ。
 
 まあ、臨時休業の札は出しちゃったけどね。

 二人は、あれでしょ?

 一緒になるんでしょ?

 いつ頃?」



「は?」





あまりにも突飛な質問に
面食らった私は真赤になって言葉を失った。


「何言ってるんですか徹さん!

 そんなわけないでしょう!」


和臣さんは、真赤になって慌てて反論する。




うっ……


そうなのだけど、


そうなんだけど、

確かにそんなわけないのだけど
そんなにムキになって否定されると、

少し傷つくな……