バニラ

順風満帆、とまでは行かなくても、
就職難を切り抜け、
無事就職が決まった事に安堵していた親にとって、
リストラなんて晴天の霹靂だったはずだ。

親戚の家の住み込みのバイトをすすめられた後、
頼むから、家から出て自立してくれと言われた。

会社からも親からも見捨てられたのだ。

まるで野たれ死んでくれとでもいうのか。
でも、涙も出なかった。

黙って家をでて、
小さな部屋を借りた。

本来就職して一年の私には出ることのない退職金だが、
生活支度金と称された、
幾ばくかのお金が支給された。

おかげで、小さなアパートの一室を借りることができたのだ。

いくつかアルバイトを掛け持ちして生活した。

派遣会社にもいくつか登録し、
底辺ながらも、それなりの生活ができるだけの収入を得た。

不用品と化した自分に何の夢もなく何の展望も見出せず、
ただただ食べるためだけに、
時間を漂っていた。

そして出会ったのが和臣さんだった。

和臣さんは輝いてた。

夢にあふれて眩しかった。

だから、給料なんて関係なく彼の傍にいられることが 

いつしか私の夢になり希望になった。

そんな彼に、請われ、カフェで働いている事はまさに夢のような状態。

これ以上何にも要らない。

これ以上望んだら罰が当たる。

従業員としてでもいい。
それで充分だったはずなんだもの。

そう自覚していたはずなんだ。