「俺から離れて行こうとするからだよ」 耳元で囁かれた。 たぶんあたしにしか聞こえない声。 いつもの渉。 「みなさん、大丈夫ですか? って、ご、ごめんな? 急だったからつい……」 焦ったようにあたしから身体を離す。 全く、この男は俳優になれば良かったんじゃないか? 王子様になった渉に、 「いえ、大丈夫です。 ありがとうございます」 他人行儀でお礼を言う。 そうしないとバレてしまうから。