「結衣…。帰らないの…?」
「ごめん。もうちょっと、残ってく」

いつもなら、葉子と一緒に帰る結衣だが今日は帰らなかった。

「無理だけは、しないでね…?」

それだけ言うと、葉子は結衣に背中を向けた。

「あ、待って葉子!さっきは、ごめんね…。無視したわけじゃないの…。あの時、多分葉子の顔見たらきっとわたし泣いてた…。だからっ……」
「分かってる、分かってるから…。ね?」
「葉子…。ありがと」

二人は顔を見合わせると、クスッと笑った。

「あ、そうだ。これ」
「なぁに?それ」

葉子が取り出した小さい容器。

「最近買ったの。すごくイイ香りで、リラックスできるんだぁ。小分けにして持ち歩いてるの。結衣にあげる!これ付けて頑張って!」
「いいの…?ありがとう!もうちょっとだけ、頑張るね!」

葉子は笑顔で手を振ると、帰宅した。

「わぁ、イイ香り。甘いけど、甘ったるくなくて好きだなコレ」

さっそく、結衣は葉子からもらった香水を付け仕事を再開した。

外は、どんどん暗くなり社員も一人、また一人と帰って行く。

それでも結衣は、仕事を止めようとはしなかった。

今まで不真面目でもなかったが、真面目でもなかった気がする。

徹を好きになってからは、徹ばかり気になっていた。

「あぁ…。疲れた……」

そんな独り言を呟き、ふと、顔を上げると徹はどこにもいなかった。