声を聴いて

 やつと出会ったのは今年の春。やつは入学式がすでに始まっているというのに、駅で困ったような顔をして立っていた。
 そのとき私は友人とショッピングをするためショッピングモールへ向かっている途中。そのショッピングモールと言うのがこの街から一駅向こうにあるところで、つまりは私もそのときちょうど駅にいたって訳だ。
 ここからは誰にでも分かる分かりやすい展開。まぁ簡単に言うなら、こういうこと。

 困ってたヤツをちょっと仏心出して助けたら、見事になつかれました。しかもそのなついたやつ、ワンコ系のイケメンよ? 羨ましいでしょ~………。

 正直言って、全く嬉しくありません!!
 イケメンよー、うっらやましー、何て言ったのはクラスメイトだったか。羨ましいならいっそのことくれてやんよ!!
 道に迷ってたから一緒に行ってやって先生に引き渡した、ただそれだけなのに! どうしてこれ程までになつかれて、ついてくるのか!! 貴様は犬か、忠犬か!! そう叫びたくなるほど、私はヤツにげんなりしているのであった。

(まぁ、悪いやつじゃないけども)

 こっちのことも考えて動いてくれているから、いいヤツには違いないのだろう。
 ……それに、認めたくはないが振り回されるのは嫌いではないのだ。むしろ、楽しかったりもする。

(……まぁ、いっか)

 2回目のため息と共に回想するのを辞めると、「おーい」という声。

「ご飯一緒に食べようぜー」

 友人である桜と智宏が、校庭で手を降ってこちらに声をかけた。