でも恋愛感情は一切ない。

自分たちより遅く入社した人はよく勘違いをしているようだけど、エイヒレのあぶりをかじりながら椅子の上で片足だけ胡坐をかいて「冷酒2合、よろしく」といぶかしげな顔で注文してるようなやつの、どこに心を奪われる部分があるというのだろう。

「あ?何か言いたいことでも?」

「いえ、ないです」

「あ、そう」

井口は軽く相槌を打つように頷いて、たこわさを箸でつまんだ。

俺は脱いだジャケットをとりあえず自分が座ってる少し脇に置いて、次にネクタイを緩めてから軽く腕まくりをした。

「相変わらず暑そうにしてんね、早見」

「そりゃ8月だからな」

「うちの会社はクールビズやってくんないのかね」

「あー、何か検討はしてるらしけど専務がどうもお堅いらしいよ」

まあその専務も今年いっぱいで定年退職だから、来年には晴れてノーネクタイが実現すると、社内では噂になっている。

「ふーん」

「つうかさ、お前頼みすぎじゃね?」

テーブルにはエイヒレ、たこわさ、たたききゅうり、イカの塩辛、子持ちししゃも、枝豆、そしてモツ煮込み。

改めて見渡して、ここに着いたときから言いたかったことを口にした。