20時半。

腕時計を見て焦りが増す。

間に合うだろうか。

慌てて部屋を飛び出してきたのはいいものの、少し冷静になる必要がある。

行き先は駅、問題は手段だ。

走ったとしても間に合わない。

自転車でも多分間に合わない。

車は持っていないので現実的にはタクシーが一番いいのだが、大通りに出ても捕まえられるかは運次第だ。

タクシー会社に電話してみても、ここに来るまでに時間がかかるようだったら意味がない。

雨の日の通勤にだけ使っている路線バスもあるが、この時間はもう本数も少ないはずだ。

一応バスの時刻表を調べる。

風のない真夏の夜は蒸し暑くて、額から汗が噴き出してきていた。

ケータイの画面が夜の闇にまぶしい。

諦めと不安とほんの少しの希望が入り混じる。

焦る指先を抑えながら画面をスクロールしていくと、奇跡的に20時の欄に35という数字だけが記載してあった。

これだ。

停留所はすぐ近くではないが、走れば何とかなりそうな距離にある。

そう思うのと同時に、もしくはそれよりも少し先に、アスファルトの道を走り出した。

腕まくりのシャツ、スラックス、ノーネクタイのまま。

でも見てくれを気にしている余裕なんてなかった。

とにかく、急いで行かなくてはならない。