それからのわたしは、雅基と話そうとすると一瞬、息が詰まるようになってしまった。

「言葉がうまく出てこない」以上のことが起きるなんて、今までなかった。

でも雅基の反応はいつもと同じで、でもそれは本音を隠しているように思えてならなくて、余計に声が体の奥の方へと潜まっていった。



断ち切りたいのに、面と向かっては言えない。

言えたとしてもきっと、反対する雅基の言葉にのみ込まれて従ってしまう。

それなら黙っていなくなるしかない。

「ものすごい量の残業があるから、今日は会社に泊まってくるね」

この1週間、機会をうかがいながらもどこかでまだ悩んでいたけど、今朝、雅基がそう言って家を出たときに不思議と決心がついた。

今日なら行ける気がする。

むしろ今日じゃなきゃ、ダメな気がする。



バスはまだまだ目的地に着きそうもない。

小さくため息をついてから、自分の左腕の時計を見た。