「違うよ。陽菜は花井旅館の取材にかかりきりだろ?まだ陽菜には、二件掛け持ちは無理だ。だから、栞里にお願いしたんだよ」
「ふぅん…。でも、少しは懐かしさはあったでしょ?結婚したがってたんだし、あの日後悔してなかった?」
意地悪く言ってみると、圭介は苦笑いをした。
「後悔したのは、そういうことじゃないよ。あの時、陽菜を考えれば考えるほど苦しくて、もし栞里とうまくいってれば、こんな思いをしなくて良かったのかなって思ったんだ」
「本当?でも、ほんのちょっとは懐かしく思った?」
と、しつこく聞いてみると、圭介はガックリとうなだれた。
「思った、思った。だけど、陽菜と一緒に行きたいと思ったのも本当」
圭介はそう言って、わたしの髪を撫でる。
それがとても気持ち良くて、安心出来るものだったからか、いつの間にか眠ってしまっていたのだった。

