──────────

─────






*青嵐.茂side*





俺が、2週間ぶりに日向と遭遇した日のこと。


俺が言ってしまったんだ。


あいつにとっての、タブーの言葉を。


あいつがいくら最低だからって。

柚姫をいじめてたって知った時に、自分が傷ついたからって。




だって、あれだけは言っちゃダメだった。





『汚い』


──その言葉に日向は敏感だ。




でも、今まで涙を流して過呼吸に苦しむ日向なんか見たことなくて。




いや、違う。


日向が弱いところなんか見たことなくて、いっつも明るくて強く笑ってたから。





──これくらいなら平気だって思ったんだ。



柚姫をいじめてたんだから傷つけばいいって。




自分であいつを傷つけたのに、苦しそうにもがく日向に俺は手を伸ばしてしまった。




でも、その時の日向の怯えた顔が頭にこびりついて離れない。



あれから一週間たったのに。


頭でリピートするのは、振り払われた俺の手と、恐怖と悲しさと闇に歪んだ日向の表情と瞳。



そして、その後に聞いた中哉の



『日向が、自分がやったって認めた』





『そん時の、日向の表情が頭から消えねぇ。目が冷たくって、なんも宿してなくて、正直冷やっとした』




その言葉と、何かを考えているような表情。




いままで否定していた、日向が認めた。


それだけでもおかしいのに。


あの日向が冷たい顔をするなんてそれこそ信じられない。

なんなんだ。


歩とか、夕は、それがあいつの本当の顔だったんじゃねぇの。


そう言うけど、中哉はそれでもまだ納得できない様子だった。




きっと俺と中哉は同じことを考えていた。


──あいつにとってのタブーを犯しちまったんじゃないかって。


だけど、下っ端の報告では、次の日からのあいつはよく授業を抜け出すようになったらしい。


それも笑顔で。