歩き出した男は、柚“香”と呼ばれた茶髪の女の腕を引っ張った。


男に合わせ歩き出した、柚“香”は泣き崩れる女のほうを、男にばれないように振り返って。



泣いていたはずの顔を醜く歪ませ、笑った。


そして男にばれないように、女の足を一発蹴りとばす。


それからまた、何事もなかったかのように男に腕を絡みつけて彼女は闇に溶けていった。



残された彼らは揺れる瞳で呟いた。




「──柚“香”?いや、あれは紛れもなく…」



…柚“姫”さん。



「なぁ、おい、まさかっ…」




物陰で見ていた彼らは、彼女の仲間ともとれる7人。



茶髪の女は7人の尊敬している奴ら、5人の男に好かれる、か弱く可憐で、可愛い姫──────だったはずだった。



だけど、いまの、目の前で繰り広げられた光景は。




一度彼らが見たことのある、光景だった。



彼らの立場は、あの男で。



泣きじゃくる女のところにいたのは、『裏切り者』と蔑まれている元姫──花崎日向。




そこにいた、青嵐の下っ端7人全員が、真実に近づいてしまった瞬間だった。




──いや、正確に言うと6人。



1人は、嫌われ者の“元姫”の友達で、青嵐の中で唯一真実を知ってる。



冷静な1人のそいつを除いて、その他の奴らはみんな動揺したように口を開いた。




「な、なぁ。俺たち、さっきの光景と似たような光景、みたことあるよな」



「ああ、目の前でな」



「んだあれ、──あれじゃまるで」



現姫のほうが悪物みたいじゃねぇか。



信じられない、信じたくない。


けれど、真実に気づいてしまった彼ら。



やっと彼らが真実を受け入れられた時。



「あいつ────!!!!」




怒りに満ちた声が、路地裏いっぱいに低く低く、響き渡った。




*とある夜の路地裏side end*