「ちょっと、茜、いきなりなにすん──」
「ばーか」
…は?
ムッと顔を歪めると、茜はいつものように意地悪く片方の口角を上げて笑った。
「考えすぎなんだよ、てめーは。いいか?幹夫とちゃんと話ししなかったら旅行はいけねぇんだ。難しいこと考えてんじゃねぇ」
「でも、もし」
「でももだってもねぇよ。旅行に行きたいか、行きたくねぇか。どっちだよ」
「そりゃもちろん、行きたいよ」
「んじゃあそれでいいじゃねーか。お前は旅行にいきたいってことだけ考えてろ。聞いたら拒絶されるかもとか、んなこと考えてビビってんじゃねえ」
「………」
「だーもう!幹夫はお前が聞いてやれば絶対話してくれんだよ、あいつだって自分から話す勇気がでねぇだけだ。お前が聞く勇気がでねぇのと一緒で」
「あ、」
あ、でも……そうかもしれない。
私が助けてみせるって言ったのに、なに弱気になってんだろう。
だめだなぁ、私。
いっつも茜に助けてもらって、背中押してもらってばっかりだ。
旅行にいくため、なんて。
不純な動機だけど。
でも何か背中を押してくれる何かがあれば、私はきっとミッキーに聞ける。
「ありがとう、茜。私ぜったいミッキーと仲直りする」
「おう、じゃあ倉庫いくか。相希、金ここ置いとく」
口にシフォンケーキを詰めまくってる相希は、口を動かすことができずにコクリと頷いた。
「またね、相希」
私も声をかけて、深呼吸を一回して立ち上がった。
茜の背中を追いかけて歩きながら、もう一度、「ふー…」と息を吐いた。



