「な、なんでもないよ」
顔にぎこちない笑顔を浮かべてそう返すと、柚姫ちゃんもそれに応えるようにふわりと笑った。
──こんな素直な笑顔をする子が、嘘をついているはずがない。
そうだよな、うん。
納得した頭の中で“でもそういう花崎さんの笑顔に騙されていたのは誰だっけ?”と考えが浮かんでしまった。
そんな考えをかき消すように、勢い良く立ち上がって
「文化祭の打ち上げ、いっちょいっとくか!」
と周りを見渡していった。
「だ、だな!いくかー!」
「えー!!ほんとに!楽しみっ!」
その言葉に賑やかになる幹部の部屋。
──よかった、いつも通りだ。
そうホッとしながら、俺は頭をフルフルと振った。
──“篠原柚姫を意地でも信じようとするのは、今ある楽しい日常を壊したくないから”
まるで、頭の中で聞こえたそれを振り払うように。
俺らの信じていたものも、日常も、少しづつ音を立てて。
──崩れていっているのにも気づかずに。
*海side end*