「は、お前…どうした?」
話しかけてくる茂の言葉に返事をする余裕なんかない。
膝の力が抜けて、その場でうずくまる。
肺の辺りを握り締めて、もう片方の手でぎゅっと頭を押さえた。
──痛い、痛い。
青嵐の仲間になってからはこんなこともうなかったのにな。
駄目だ、青嵐に会ってから弱くなってるね、私。
全部が怖い。
皆がわたしを汚いって思ってる。
だからみんなは私を嫌うんでしょ?
「はぁ、ぅ、いや、ごめんなさ、」
頭の中が、過去の記憶で埋め尽くされる。
あの人の顔が、見える。
あの時の光景が全部全部、鮮明に思い浮かぶ。
『汚い』
沢山の口が動いてそう言う。
あの時みたいに、水の中にいるみたいに息ができない。
今はあの時とは違う。
わかってるけど、どうしてもあの時と重なってしまう。
いや、嫌だ。怖い──。
「なぁ、ほんとお前どーした…」
「っい、いや!!よらないでっ…!!」
──パンッ!!
伸ばされた茂の手に、なんでか首を絞められると思って。
私はとっさに茂の手を払った。
宙を彷徨う茂の手。
荒い息のまま、茂の驚いたような顔を見る。
そして、自分が今何をしてしまったのかに気づいた。
最低だ、私は。
……茂が、一瞬あの人に重なって見えた。
どうしようもなくなって、思いっきり立ち上がる。
「っ…!!」
そして逃げるように、私はその場を走り出した。
最低だ。
青嵐のみんなを最低だなんて言う資格がまるでない。
そりゃあ、彼らは十分最低だ。
けど。
仮にでも仲間だった人と、あの人を一瞬でも重ねてしまうなんて。
私が一番、最低だ。



