真実と嘘〜Truth or Falsity…*〜【上】





総長や幹部がいる部屋に、一つ増えたイスは彼女の存在を認めるもの。


姫でも、幹部でも、ましてや仲間でもない彼女の。






『ゆーちゃんゆーちゃん、トランプしよーよ!だからこっちきて!』



『はぁ~?ひとりじめ?そんなのゆるさないよ~柚姫ちゃんは俺と今からイイコトするんだもんね?』



『ばっかじゃねーの、この十八禁サル。オイ柚姫そんなやつほっといて俺とコンビニいこーぜ』



『お前は二人になりたいだけだろ。柚姫ちゃん紅茶入れたからこっちおいで、中哉がケーキ買ってきてくれたぞ』



『俺が食わしてやろーか柚姫』






これが最近の当たり前。


そして私はその和から少し離れたところで、音楽を聴いてるかスマホをしてるか課題をやってるかって感じで。




だって私は姫のはずなのに。


まるで私が部外者で。


ココにいちゃいけない人みたいで。



いたい、むねが。

ちぎれそうではりさけそうで、どうしようもないくらい。

目の奥からこみ上げてくる熱い何かをせき止めるようにぎゅっと、目を閉じる。


大丈夫、私の居場所はまだココにあるよって言い聞かせる。



『あー、そういや日向は?あ、いたお前もこっち来てケーキ食うか?』


『……んーん、へいき』



声が震えた。


気づく可能性もないのが唯一の救い。




なんで、だめだ泣くな。


ただでさえわたしの居場所はなくなりかけてるのに。


めんどくさいヤツだって、捨てられる。



居場所が、なくなる。


『ちょっと、外…出てくる』




歪む視界と流れ出そうになる涙と、崩壊してしまいそうな私の心と顔。


ゆっくり部屋を出て、顔を俯かせながら外に向かって全力で走り抜けた。




『日向さんこんにちは』にこやかに挨拶してくる下っ端の彼らを無視して、間を練りながら走る。



私の中の何かが崩れてしまう前に、そう思いながら倉庫をでて裏にある大きいドラム缶に背中をもたれかけた。




『…ふ、ぅ』


『ぁ…ひっく、うーー…』


なるべく、声を出さないように。

口に両手を押し当てて、目からとめどなく涙をこぼした。


もたれかけていた背中はずるずる落ちていって、立っていられなくなって地面にへたり込んだ。


いたい、喉が焼けるようにいたい。

ぎゅーってにぎられてるみたいに心臓が痛い。






『ぅー…っなんで、わたしの、』






なんで。







なんで私の大切なものも、居場所も、奪っていくの…?




夕焼けに染まっていた空が、黒になって星が出てくるまで。


私はその場所で、泣き続けた。



泣き止んでから、ぼーっとしていた私は足に力を入れて立ち上がった。



…いい加減、戻らないと。


息を吐いて立ち上がり、倉庫裏から歩き始めると下っ端の一人と鉢合わせてしまった。


きっと私が泣いてるのを見ちゃったんだと思う。



困ったように笑いかけてくれて。


わたしも、眉を八の字にして苦笑いを返した。



そして、幹部たちの部屋の前まで戻った。


荷物をとって帰ろう、そう思ったけど中から聞こえてくる騒がしい声に一瞬足が止まった。




目は見られないようにしよう、多分赤いから。



扉を開けて、俯きながら自分の荷物のところまでたどり着いて、…危うく笑いそうになってしまった。



だってだれも私のことなんかみてなかった。



目を見られないように、だなんて自意識過剰だったかもね。




ギャーギャー騒ぎながらだれが篠原柚姫を送るかで争っている彼らに背を向けて私は静かに部屋を出た。






恋すると人はここまで周りが見えなくなっちゃうんだ。





…変わっちゃうんだ。







これじゃあ私、名前だけの姫だよ。



でも名前だけでも、彼らの側にいたかった。




彼らの側を離れたら私を認めてくれる人もいなくなるから。


姫をやめたら、彼らに出会う前の私に戻ってしまう気がしたから。




認めてくれる人も、信じてくれる人もいない、彼らに出会う前の一人ぼっちの私に。



そんなの嫌だ。


独りになってしまう恐怖と、執着心。




もう相手にされてなくても、すがりつきたかったんだ。



わたしの生きがいは。


仲間は、そんなもろいものだと思いたくなかった。







それからはずっと、いつ篠原柚姫に姫の座を奪われてしまうのかと怖がって過ごしてた。











──でも。





わたしの、“名前だけの姫”も終わり。


私はあの日、独りになった。




あの日は掃除があって。



少し遅れて倉庫に行った。







入った瞬間、軽蔑するような目をみんなに向けられて。



わけが分からなくって。



混乱する中で視界に入ったのは、傷だらけのボロボロの篠原柚姫だった。





どうしたの…?


私をみた瞬間、篠原柚姫はガタガタ体を震わせて、涙を流す。







……な、に?


そんな篠原柚姫をみんなは守るように囲んで、私を睨みつけた。







────え?






『…柚姫を傷つけたの、お前なんだろ』




ねぇ。



何、言ってるの?

全く理解できない。


…私が篠原柚姫を傷つけた?




『…は?』



『こいつが言ってんだよ。今まで柚姫が怪我したのも嫌がらせされてたのも、全部お前のせいなんだろ?』




…ゆ、う?
なんでそんなの信じてんの?


なに言ってんの?





なんで篠原柚姫の言ったこと信じてんの?










…なんで。なんでよ。





『違うっ!あたし、そんなことしてないよ!?』





なんで信じてくれないの?

涙を堪えて、震える声で否定する。




でも、そんな私を見てもみんなの軽蔑するような目は変わらない。




『いくら中哉が好きだからって、柚姫をこんなにボロボロにするのはさすがにちげぇんじゃね?つーか、ありえねぇんですけどー』






茂の言葉が、グサリと胸に刺さる。


もしかして、私が中哉のことを好きなこと、みんなに話したの?



内緒にしてくれるって、いったのに?






…なにそれ。ひどいよ。





みんなみんな、私のこと、

信じてくれないの?




わたし、やってないってば。