車が見えなくなれば、諦めて帰って行くだろう。

ボンが遠吠えをした気がした。

すると突然、跳ねるように立ち上がった。

猛然と幹線道路に突っ込んできた。

キィキー!キー!!…………

急ブレーキの音が聞こえた。

「ボン…死ぬな!」

光芒のように立てた白い尾が、一台挟んだ車の屋根越しに光った。

胸を撫ぜ下ろした。

パトカーは車線を開ける車を追い越して疾走をつづけた。

ボンは一台挟んだ車の後ろから尚も追いかけてきた。

僕には求むと求まざるに関わらず、数え上げれば切りがないほどのしがらみがあるのに、ボンには僕と優紀しかいない。

想像以上に僕を想い、愛し、頼っているのだろう。

ボンの雄姿を見ながら、彼の流した汗の量で、僕への思い入れがわかるような気がして、まぶたがどうしようもなく熱くなってきた。

『もういい。もうわかったよ』

その後もパトカーは法廷速度を越えたスピードで狂ったように飛ばした。

時折、真赤な舌をのぞかせ、死物狂いで走っているボンだが、パトカーとの距離はどんどんとついていった。

(これでいいんだ。パトカーが見えなくなれば諦めるだろう)