バンパーに鼻先を触れるような至近距離から付かず離れず付いて来ていた。

いつの間にか噴き出した汗が目に入った。薄汚いシートカバーで拭った。

車が停止した。

僕の体は前のシートに勢いよくぶつかった。

幹線道路と交差する信号につかまったのだろう。

ボンは右側の後部ドアに手を掛け、鼻を鳴らした。
「クゥーン クゥーン」

「ボン!お願いだから、帰ってくれ」

次に心の中で話し掛けた。

『これ以上は知らない道だし、いい子だから、家で待ってるんだよ』

ボンは僕の目を見て、体全体で息をし、少し落ち着いてきたように見えた。

『よし、このまま帰るんだよ』

信号が青に変わった。

「ボン“オアズケ”!!」 

唯一出来る芸を叫んだ。

ボンは首を一回かしげると、“オスワリ”した。

“オアズケ”を言うと、“オスワリ”をして許可が出るのを待つ習慣があるのだ。

車は三車線道路にゆるやかに入ると、左に進路をとった。

歯ソーノーローが一言言った。

「サイレンを鳴らせ」

車はサイレンを鳴らし、スピードを上げた。
座ったままのボンの姿がみるみる小さくなっていった。