ボンはアッという間に公園を過ぎ、車の中の僕を一途に見つめたまま、筋肉を躍動させた。

車に並ぶと、ドアに前足を掛け、リアウインド・ガラスを激しく吐く息で白く染め、猛烈に吠えた。

「ちょっと下ろしてください。犬に帰るように言い聞かせますから」

これ以上ついて来ると、家に帰れなくなる心配があった。
そしてそれ以上に、このまま80mほどくねった道を進むと片側三車線の幹線道路にぶつかるからだ。

……夢中状態のボンが、車と衝突するのは必至と思われた。

「お願いします!お願いします!」

恥も外見もなく、彼らに向って頭を下げた。

彼らは聞いていないかのように前を見つめたままだった。

その間もボンは激しく吠え、ウインドに前足の爪を立ててキーキーと引っ掻いた。

「お願いします!これ以上犬がついて来ると、車に轢かれる可能性があります」

「どこに犬がいるんだ!俺には見えないが」

と言って、歯ソーノーローが血の滲んだ歯ぐきを、ニカッと見せた。

僕は一瞬、頭に血が登った。

「ざけんな!」

彼の襟首を締めた。

「目の前にいるのが見えないのかよ!」

「苦しい!やめろ!」

「公務執行妨害、暴行罪の現行犯で逮捕する!」