「ほんと? 嬉しい!」

その時、若大将が僕の足の間に入ってきた。

「若大将は車を怖がらないの?」

「うん。ぼくたちいつも一緒だから、お父さんの車の助手席をトリッコするほどなの」

彼らの様子が想像でき、微笑んだ。

助手席のドアを開けると、彼らは先を争うように入って来た。

ほとんど体力差のない彼らは上や下への大騒動だったが、おじさんの車よごしちゃ悪いよと言った、少し大人の精神構造の少年のほうが負けて、窓際を若大将が確保していた。

駒込図書館に向かって走りはじめた車の中で、昔飼っていたボン(紀州犬)も車が好きだったなと考えはじめていた。

…ボンは今どこにいるのか?せめて生きていてくれ。
あの女のせいでボンとは生き別れ、僕は留置所に7年もお世話になっていた。

憎むべきは未美(みみ)と白木 猛(しらき たけし)の二人だった。

二人の思いがけない仕打ちのお陰で、名誉も自由も青春も、そしてボンも失った。

留置所での7年間、一時も忘れられなかった二人のうすっぺらな笑い顔がまたしても脳裏に登場してきた。


「おじさん、ちょっと窓あけて!若大将気持ち悪そうなの」

「うん。わかった」
パワー・ウインドのスイッチを押した。

「もうすぐ着くから我慢してね」

図書館の駐車場に着くと、急いで助手席のドアを開けた。