足音に気付き、目を上げると、カマキリがモップを持って近付いて来ていた。

「皆様の迷惑です。早くその汚い犬を連れて退館しなさい!」

若大将に向かってモップを振り上げた。

「いやだよ!」

と、少年は若大将を守るように頭を覆った。

僕はカマキリの振り上げたままのモップを掴むと、

「ちょっと貸して」

と、取り上げると、床掃除の続きをはじめた。

カマキリは呆気にとられたようで、口と足を開いたまま固まった。

僕はその開いた足の間につづいている足跡に、モップを差し込んだ。

「ギャー!変態!」

と、ヒステリックに叫んだカマキリに向かって、若大将が野生に戻ったように物凄い勢いで吠えた。

     *

結局、二人と一匹は追い出されていた。

「ごめんね、おじさん。一緒に出されちゃって」

「君は優しい子だ、まず人のことを心配できるなんて。それより明日までに調べるものはできたの?」

「ううん。できてないけど、…謝れば、きっと許してくれると思うんだ」

と、言った少年の目は悲しい色をしていた。

「そうだ!? おじさんの車で隣町の図書館に行ってみないか?」