しかしボンはそれをさせなかった。サービス精神を発揮し、彼女の指と掌をペロペロと舐めはじめた。
彼女は整った顔を歪め、明らかに我慢していた。
僕には彼女の気持ちが理解できなかった。
しかし気の毒には思え、ボンを引き離すと、胸に抱き上げた。
ボンは、僕の顔を通り越して見つめるものにシッポを振った。
ボンの視線を辿ると、垣根越しに僕らを見つめる優紀の姿があった。ボンを落とさないように気をつけながら左手を振った。
( やる事は一緒だな。ボンはシッポで、僕は左手だ。フフ…… )
「未美、妹を紹介するよ」
未美を見ると、庭にある水道で手を洗っていた。
「えっ なぁに?」
花の刺繍の付いた綺麗なハンカチで手を拭きながら近付いて来た。
「あの子を、妹みたいな隣の子を紹介するよ」
「えっ どこにいるの?」
振り返ると、さっきまでいた優紀の姿が消えていた。
その日は結局、材料を駄目にしてしまったので、僕がレストランでディナーをプレゼントした。
未美はそれに懲りず、その後も何度か家に遊びに来てくれた。
しかしボンのことはあまり好きではないようだった。

