その2週間後、生命保険の外交員を名乗る30歳前後に見える化粧の厚い女が訪ねてきた。普段だったら追い返していたが、君が老化阻止薬の商品化に首を縦に振らなかったことと、これ以上妻に君の婚約者役をさせるのに我慢の限界にきていたことなどから、君を殺す話もでていた時期なので、いっそのこと生命保険をかけてと考えを巡らせ、女を招き入れた。

昔のマンションに住んでいた時だったので、もちろん家政婦もいなかった。
俺は自分で紅茶を入れるために台所に立った。

ティーカップに湯を入れた時、背中に鋭い痛みが走った。居間にいるはずの女が俺の後ろに回り、庖丁を突き付けていたのだ。

「私の1千万円返して!」

俺は何が何だかわからなかった。

「私の命がけで稼いだ、1千万円返してよ!」

庖丁が少し刺さった。

「イタッ!」……こいつは狂人か!?

「私の心はこんな痛みじゃなかったわ!」

またも庖丁に力が加わった。

「…わかった、わかった。払うよ」
「払うじゃなくて、返すでしょ!」

その時、ドアの開く音がした。未美が帰って来たのだ…。女が後ろに気を取られたわずかの隙に、俺はティーカップの中の湯を女にかけた。

「ギャーッ!」女は顔を覆った。

俺はナガシにあった果物ナイフを掴むと、未美のもとに走った。

玄関に、緊張した顔の未美が見えた。

「何事よ!?」