青春を取り戻せ!

何を話そうかと思ったかというと“オアズケ”の話であった。
ボンに芸は何も教えていなかったが“オアズケ”ぐらいは出来るように現在教育中であったのを、彼女に邪魔されたのだった。


僕は家の中に入り、ベット・メーキングをはじめた。

ボンを抱いた優紀が、戸口に立った。

「やっぱり女だな！？」

優紀は睨むような目をした後、額のしわと大きな目玉を中央に寄せた。

ボンは毛の生えていない肌色の腹をこちらに向け、宙に浮いた足で自転車をこぐような仕草をしている。

「暇なら手伝ってくれよ」

「その前に質問に答えなさい」

「おまえだんだん、お母さんに似てきたな」

「フン。余計なお世話よ。ボンはこんなお父さんに似ちゃだめよ」

彼女はボンを左手で横に抱き変えると、空いている右手で頭を撫ぜた。

ボンはその掌をなんとか舐めようと、顎を苦しそうに上げて努力している。

優紀に手伝ってもらい掃除が一段落すると、電話のベルが鳴った。　

未美からだった。

もう駅前に来ているということだった。

僕は優紀のひやかしの中を車で駅に向かった。

未美はダーク・ブルーのワンピースにパールのネックレスを二重に巻き、まるでパーティー会場で取り残された壁の花のような沈痛な面持ちで電話ボックスの横に立っていた。