「お休みなさいませ!」

廊下の音は静かになっていった。


「先程の質問に答えようか?」

僕は片方だけ残った髭を取り、次にメガネをポケットに入れた。最後に、灰色のコンタクトレンズを外した。

彼らは茫然自失したように口をポカンと開けている。

「まだわからないようだな?おまえたちより、よっぽどボンのほうが賢いな」

「アッ!?おまえは板倉!!」

二人がほとんど同時に叫んだ。

「そうだよ。おまえたちが殺人犯に仕立て上げた板倉だよ」

「どうも、私たちになつかない、あのバカ犬が、初めて見る人間にシッポを振るからおかしいと思ったんだ」

未美はくやしそうに言い放った。

…ボンは可愛がられていなかったようだな。かわいそうに……。

「何故、ボンがここにいるんだ」

僕は白木を睨んだ。

「おまえの乗せられたパトカーの後をつけたんだよ。そうしたら、舌を出してのびてるあの犬を見付けたのさ」

「でも、よく育ててくれたね?」

「もしかしたら、殺人犯の犬を育てたということで美談の材料にでもなるかなと思い、連れて帰ったのさ。案の定、社内報に載せたら、社員思いだと評判になったよ」

白木は大きな口をあけて笑った。