寸前で払ったが、鼻の下に軽い痛みを覚えた。

(アッ!?)
付け髭の片方がなかった。

彼女の目的は、頬を張る事ではなく、付け髭を払い落とす事だったようだ。…あの時、髭が取れたのをしっかり見られていたのだろう。

彼女は絨毯の上の付け髭を汚い物を扱うようにつまみ上げると、下品なうすら笑いを浮べた。
「これは何だよ!?コソ泥!」

僕はまた眉間に皺を寄せた。…頼むから下品な口調はやめてくれ!

いつの間にか白木の手に拳銃が握られていた。

「おまえは誰だ!?…何故こんなことをする!?」

「質問は一つづつお願いしたいね。僕はいっぺんに答えられる程、利口でないんでね」

「このやろう!自分の置かれた立場を考えろ!」

「もう少し静かに聞けないの?」

その時、バタバタと廊下で音がした。

「だんな様、何かあったのですか?」

「ほら言わないことじゃない。…ピストルが見られちゃうよ」

「うるさい!」
白木は廊下の方を向いた。
「…何でもない!おまえたちはもう帰っていいぞ!」

「はい。わかりました。何かあったら呼んでください」

「もう帰れと言ったのが、聞こえなかったのか!」
「はっ!それでは、失礼します」