『…水島どちら様ですか?』

「水島高嗣ですが」

『ふざけるな!水島高嗣は私だ』 

ガチャン! ツー…ツー…

(しまった!?本物だ!)

…白木がさっき家政婦に、電話はすぐだぞ!と怒鳴ったのは、僕に疑いを持ち、確認の電話を入れさせるためだったのだろう。 

助教授には一ヶ月前にこの件の終了を連絡しておいたので、本当に悪戯電話と思ったのだろう。
それに僕は意識して低い声を作っている。ちょっと聞いた位ではわからないかも…。

心臓が破裂するほど激しく運動をはじめた。握っている用のなくなった受話器が吹き出した汗で滑った。

「先生、水島高嗣先生、世の中には不思議なことがあるもんですな?同姓同名、しかも大学も同じときている」

背中で声がした。
「こちらを向きなさいよ!」

普段の彼女とは思えない、下びた声が聞こえた。

僕は少し冷静になると、向き直り、苦しそうに笑った。

「まったく不思議なことがあるもんですな?」

「とぼけるんじゃないよ!」

また彼女がズベコウのような声を出した。

僕は眉間に皺(しわ)を寄せた。…バレてしまった焦燥以上に、彼女の下品な口調を聞きたくないという不可解な心理が眉間に皺を作らせた。

彼女は僕のそばに歩むと、いきなり顔に平手を打ち込んできた。