「タツロー、柳沢さんよ」

「えっ!?サンキュウ」
僕は受話器を受け取った。
「柳沢ちゃん、今どこにいるんだ?」

『いま空港だよ』

「どこに行くんだい?」

『それはお互い、ほとぼりが冷めるまで知らないほうがいいだろ?』

「そうだな。……小切手の換金はうまくいったか?」

『おぉバッチグーさ!それより、こんな大金、全部もらっちゃっていいのか?』

「勿論!それは君の正当な報酬さ。それよりパスポートありがとう」

僕は、高橋貢という名の偽造パスポートを彼から受け取っていた。

『ありがとうはいらないよ。自分のついでがあったし、それも報酬の一部だと思ってる』

「うん、ありがとう」

『だから、ありがとうはいいって』

「そうだったな」
僕は受話器に微笑んだ。
「じゃ、くれぐれも体に気をつけて」

『板倉ちゃんもな。じゃ、いつの日かの再会を願って、オ・ルヴォワール』

電話は切られた。
横で耳を側立てていた優紀が聞いてきた。
「彼、どこに行くって?」

「教えてくれなかったが、気分はパリに飛んでるみたいだよ?オ・ルヴォワールだって」

二人で笑った。
再び電話が鳴った。