「うまく行ったわね」

と、優紀は僕に微笑みかけた。

「うん。ありがとう。後は仕上げだけだよ」

「柳沢さん達、もうどこか外国に旅立ったかしら?」

「だと思うよ」
僕も微笑み返した。
「君のほうは明日にでも辞表を提出しておいてくれ」

「えっ、どうして?」

「君の任務は終わったし、つぶれる会社にこれ以上いても仕方無いだろう。それに、突然無断欠勤を続ける事態になったら、疑われるからね」

「…わかったわ。でも理由は何にするの?」

「一身上の都合でいいだろ」

「詳しく聞かれたら?」

「…結婚とでもしておけよ」

「えっ…してくれるの?」

彼女は大きな瞳で僕を見つめた。

「それは、…ちょっと待って!…もっとお互い信じ合え、一匹の男と女を感じられてからじゃないと、不幸になると思うんだ」

「それは、いつ?」

「………まだ、わからない」

「…あまり放って置くと、誰かのものになっちゃうぞ」

リーン! リーン! 

その時、神の救いのように電話のベルが…

優紀が受話器を取った。
「はい。桂です」